悠々blog

アイドルとかについて

宝塚とAKB48

森下信雄『元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略』を読んでいます。2015年1月に出た新書です。

宝塚の制作課長、プロデューサー、劇場部長、総支配人と宝塚歌劇事業全般を経験した筆者が宝塚のビジネスモデルを体系化して開示した興味深い本です。特に注目すべきは1章まるごと充てられた宝塚歌劇とAKB48の比較論です。

 

宝塚歌劇・AKB48の双方に共通しているキーコンセプトとして「シロウトの神格化」が掲げられます。比較にあたっては、

①必然性と偶然性

②閉鎖系と開放系

③近接性と結界

④物理的アクセスと心理的アクセス

⑤卒業とホーム・カミング

という5つの視点に基づいた分析がなされ、「未完成」なシロウトが進化していくプロセス、そしてファン・コミュニティとのコミュニケーションそのものがビジネスとして成立していることが示されます。

 

それについて考えることはこれからの「プロダクト(モノ)を売るのではなく精神的充足をもたらすコミュニケーション(プロセス)を売る時代」のヒントになるかもしれません。

 

中世史の研究者・網野善彦氏は、芸能や宗教といった人の魂を深く揺るがすような文化は、「無縁の場」に生まれ、「無縁の人々」によって担われてきたと語っています。

宝塚歌劇やAKB48を支える人たち(ファン・コミュニティ)は、OLであろうが、主婦であろうが、学者であろうが、ニートであろうが、宝塚歌劇・AKB48に関わっている瞬間は血縁・地縁・社縁・肩書きと言った様々なしがらみから解放される「無縁の瞬間」に生きていると感じられること……それが大きな魅力なのです。 (中略)

いわば、現代人の抱える様々なストレスからの解放区(ただの逃げ場ではない)として宝塚歌劇やAKB48はますますその存在感を高めていくと私は考えます。(pp.133-134)

 

完成品ではない未完成なもの、コミュニケーションそのものを売ることで成功するには、商品そのものの価値(「面白い」)は勿論として、「面白そうだ」という期待感を醸成することや、「面白かった、また体験したい」という次に繋がる余韻を残すことが必要になると筆者は言います。創り手から受け手への作品の届け方はもはや一方的では無く、相互的かつ偶然的というカオティックなものになっており、これからのプロデューサーは従来の知識に加えて心理学、行動経済学社会学やコミュニケーション学といった様々な学問分野へ関心を持つ必要がある、という指摘は印象的です。